絶頂は今

好奇心と探究心。

僕らの平成ロックンロール


 久しぶりに、朝井リョウの小説を読んだ。

 初めて朝井さんの小説を読んだのは「何者」だった。もう4年も前のことだ。確か、読書大好き芸人という番組でオードリーの若林さんが薦めていたのをきっかけに本を手に取った記憶がある。
 「何者」を読んだ日のことは、今でもよく覚えている。4年前、優さんのライブに初めて行くために新潟へ向かうバスの中だった。
 読み終えた時、あまりにも自分の身に覚えのある目の背けたくなる側面を露わにされるものだから、叫びたくて逃げ出したくてでも心を掴まれて救われているというなんとも言えない感情に陥った。

 それからずいぶんと時間が空き、私自身もあの当時よりも進んでいて、考え方も生き方もきっと変化していて、そんな折に梶さんが書いた本の帯を見かけて久しぶりに読んでみたいと思い、朝井リョウの最新刊を図書館で予約した。
 とても人気で、予約してから4ヶ月以上は待った。そしてようやく借りられた本を1週間かけて読んだ。なにせ500ページ近くあるので、時間をかけて少しずつ読んでいった。

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誰とも比べなくていい。
そう囁かれたはずの世界は
こんなにも苦しい――

「お前は、価値のある人間なの?」

植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介。
二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは?
毎日の繰り返しに倦んだ看護士、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年ディレクター。
交わるはずのない点と点が、智也と雄介をなぞる線になるとき、 目隠しをされた〝平成〟という時代の闇が露わになる。

今を生きる人すべてが向き合わざるを得ない、自滅と祈りの物語。



 南水智也と堀北雄介。
 この二人が物語の軸となっていて、二人のいわば「対立」がテーマの基盤になっている。二人の人生を第三者の視点からじっくり追っていくと次第に見えてくる真実。
 その書き方が上手すぎて朝井さんやべぇ~~~~天才……………という感想しか出なくなるレベル。

 村田さんの小説を読んだ時も似たような感覚がするのだが、たぶん私は、誰かに目を覚まさせてもらいたいのだと思う。

「自分、調子乗ってない?」
「その生き方、かっこいいと思ってるの?」

 定期的に、誰かに、揺さぶられたいのだと思う。そうしないと、私はどんどん暴走してどんどん偏っていきそうで。私にとって読書は自己の見直しという意味合いが強い。

 今回の「死にがいを~」も、読みながらあぁぁぁぁぁ本当朝井さん………うわぁ……容赦ない………とか言いながらその感覚の悦に浸っていた。
 隠しておきたかった、蓋をして直視したくなかった部分を、小さなナイフでじわじわとかさぶたをえぐり取られて内側を表に出されるような、そんな感覚。そのくらいの刺激がないと、私は自分を見失いそうで。

 たくさんの人と交流していようがいまいが
 人より多くの本を読んでいようがいまいが
 良い大学を出て良い会社に就職していようがいまいが
 熱心に働いて社会貢献していようがいまいが
 海外に出て人生経験を豊富に積んでいようがいまいが
 誰かと愛し合い、満たされていようがいまいが

 結局人は人の範疇からは抜け出せないし、人間のたった一つの人生で成せることなんてたかが知れていて。
 そうなったとき、じゃあこれから自分はどうしようか考えるのが大切なのだろう。

 悩んでるこの時間さえも、どんどん流れていく。
 日々が流れ、人々の歩みも止まらない。思想や風潮も流れ、時代も流れる。変わることが普遍的な世の中で、変わらないものの価値とは。

 今回のテーマは「対立」だが、我々の世代が育った平成という時代はどんどんその「対立」が表面的には失われていった。
 けれども水面下では依然存在し続けており、やれインスタ映えリア充だ自分は生きがいを見つけてキラキラしてますアピールだと形を変えて目に見えない「対立」をしているような気がする。

 スペインの哲学者オルテガは、大衆の反逆の中で、「敵とともに共存する決意」にこそリベラリズムの本質があり、その意志こそが歴史を背負った人間の美しさだ、と言っている。
 そして忘れてはいけないのは、現在の社会や秩序が、先人たちの長い年月をかけた営為の上に成り立っているということ。数知れぬ無名の死者たちが時に命を懸けて獲得し守ってきた諸権利。死者たちの試行錯誤と経験知こそが、今を生きる人々を支え縛っているのだと。

 明治、大正、昭和、平成、そして令和。このたった150年の間にも目まぐるしく世界は変わっていった。
 武士の時代が終わり、外国の文化が流れ込み、人々の民主主義が問われ、痛ましい戦争がおき多くの犠牲者被害者が出た。そして、平和を祈り人々の生活を豊かにするための発展が飛躍した。

 令和は、どんな時代になるのだろう。ありのままの自己を皆が認められ、他者を陥れずお互いに尊重しあえる社会になってほしいと私は祈っている。
 小さな幸せを見逃さず、ありがとうと大好きで溢れるような、優しい時代になってほしいなと思うのだ。
 いつでもどこでも誰とでも繋がれてしまう世の中で、会って直接話したい人とファミレスで何時間もおしゃべりしちゃうような幸せで溢れていますように。

 前へ進むほど過去の歴史に救われることを忘れないようにしていきたいと改めて思った本でした。
 平成を生きた全ての人に、是非。


 ─タイトルは大好きな優さんのアルバムのタイトルから。