絶頂は今

好奇心と探究心。

趣味の領域外


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 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編を観てきた。

 シンプルに面白かった。シリアスなシーンとギャグシーンのギャップも良かったし、テレビアニメから登場しているキャラクターたちの成長を感じて物語としても見ごたえのある映画だった。
 新たに登場したキャラクターもまた魅力的で、映像や演出も素晴らしく、まさに「これは映画館で観たい!」と思わされた迫力のある映画だった。

 私は数年前からアニメと声優さんが好きで、鬼滅の刃のアニメがテレビで放送されていた当時(去年の春夏)も、リアルタイムで見ていた。
 その頃はまさかここまで社会現象としてブームになるなんて思っていなかったし、アニメ好きの一人として純粋に面白い作品だなと思って見ていた。

 なんとなく空気が変わったな、と思ったのは、テレビでやたら「紅蓮華」が流れ出した頃か、それとも学童に通う子どもたちの口から鬼滅の話題が出るようになった頃だろうか。明確な時期は覚えていないけれど、去年の冬あたりからなんとなく、私が趣味の領域で楽しんでいたものが、世間一般に、ひいては職場の空気にまで流れ込んできた印象だった。
 とても、居心地が悪くなった、と思った。

 決してこの作品が悪いわけでも、社会的にヒットしブームを巻き起こしたことが悪いわけでもない。この作品の魅力が大多数の人々の心に刺さって、人気に火がついたのだろうし、テレビアニメはどの話数も面白かったし私も楽しんで見ていた一人だった。
 ただ、ここまで事が大きくなると、自分のプライベートの部分がおおっぴらにされたような、純粋に好きだった気持ちを軽んじられたような、そして”ただのアニメ”としては扱いきれなくなったような、そんな感覚がしてきた。

 鬼滅の刃という作品を見て、何をどう思うかは人それぞれ千差万別だろうが、それが子どもたちの話となると、私個人としてはモヤモヤすることがある。

 今回の映画に関して言えばレイティングにPG12が設定されている。これは、12歳未満(小学生以下)の鑑賞には成人保護者の指導や助言が必要なもので、性・暴力・残酷・麻薬などの描写やホラー映画などが対象となっている。

 今回の作品も、見ていてこれはグロテスクだな…と思う描写が多かった。しかしそれは今回の映画に限らず、深夜帯にテレビアニメとして放送していた時も同様である。それらは原作をリスペクトし、物語を最大限魅せるための表現だと思うし、むしろそういった表現や描写を今回の映画で改変せずに鬼滅の刃が持つ世界観や主人公たちが立ち向かっているものをより体感に近づけて製作してくださった製作陣に拍手を贈りたいほどだ。

 ただ、それを子どもたちが触れること、ないしは教育現場に持ち込むことはまた別の話ではないかと感じてモヤモヤしてしまう。
 これは私の考えすぎかもしれない、子どもたちを信頼できていないのかもしれない、それでも、大手を振って私はこの作品を子どもたちに薦めることはしたくない、というのが正直なところだ。

 少し前に話題になった、「アンパンマン」は幼児教育に適切か否か、という問題と似ている気がする。
 確かに悪事を働いたものに裁きを下すことは、社会の秩序を守る上で必要なことではあるが、誰もが裁判官になれるわけではない。この国で、法の下で裁きを下すにはそれ相応の知識と教養が必要で、且つ国や組織が定めた基準に達した者が公共の福祉やその事件に関わる全ての人の人権に配慮した上で行われる行為でなくてはならない。(憲法基本的人権の享有や適正手続の保障、刑事訴訟法の第1条など)
 それを、子どもたちが学習し理解するのは一体いつなのか?と思ってしまう。

 鬼滅の刃は鬼を退治する物語ではあるが、鬼だからといって全ての鬼が極悪非道というわけではない。現に主人公である炭治郎の妹は鬼になっても人間を守ろうとしている。また、テレビアニメシリーズに出てくる手鬼や響凱、累なども鬼になった背景を知ると胸が痛む。これまでに犯した残忍な行いが無かったことになるわけではないが、鬼にもそれぞれ鬼になった理由があり、人間であっても鬼のように極悪非道な者は存在する。そこがこの作品の面白いところだと私は思っている。
 また、この作品で私が一番好きなところは自分は何のために戦うのか、誰のために戦うのか、ないし自分は誰を守りたいのか、何のために守りたいのか、どんな方法で守りたいのか、その上で自分はどう生きていくのか、自身の誇りとは何か、そういうことを考えさせられるところだ。
 炭治郎、伊之助、善逸はもちろん、柱たちもそれぞれがそれぞれの信念を持って刀を手にしている。そして刀を振るうことは簡単なことではなく、相応の覚悟と鍛錬が必要なのだ。
 悪者を倒すことだけが正義というわけではないし、正義の反対はまた別の誰かの正義と言われるほど正義の定義は曖昧なもので、だからこそ慎重に扱わなくてはいけない部分だと思う。

 今回、私が特に心配になったのは炭治郎についてだ。彼は家族を惨殺され、大切な妹を鬼にさせられた少年だ。鼓屋敷編でも長男だから!とボロボロになっても戦っている姿に時代錯誤だな…と思ったものの、時代設定が大正時代なのでそこまで気に留めなかったが、今回の映画を見て余計になんでこんなに頑張っているんだろうこの子は…と思ってしまった。

 長男だから、家族のために、大切な人たちを守るために戦う炭治郎の生き方はそれはそれで良いのだけれど、必ずしもそれが正解というわけではない。
 正直私は炭治郎があんなに頑張って修行して、苦しくても辛くても耐え抜いて、どんな時も頑張って頑張って身を削って戦っている姿を見て、そんなに頑張らなくても良いのに、もう十分炭治郎は人を助けているよ…って思ったし、救われなかった部分よりも救われた部分に目を向けてほしいなと思った。
 これは完全に私のエゴなのだが、鬼滅の刃を見て、炭治郎に憧れた人たちみんながみんな炭治郎みたいにならなくていいんだよ、と思ってしまったのだ。

 確かに炭治郎は強い。剣士としての実力もそうだが、何より彼は精神面においてめちゃくちゃ強い。どんなにくじけそうな時でも、決して折れない心を持っている。そして心の底から優しい。炭治郎の強さは優しさから成り立つ強さだと思う。彼が周りを引っ張っているように、彼を支えてくれる存在がいてほしいと願ってしまう。
 そういう意味では、妹の禰豆子や伊之助、善逸がこれからも突っ走る彼を上手く止めて一緒に協力しながら戦っていってほしいなと思った。

 この作品を教育や保育の現場でどう扱うべきか、職場の先生方とも話したりしているが、現状何も言わずに傍観している形だ。
 子どもが興味を持つことを止めるのも違うし、かといって積極的に触れさせるのもまた違うと思う。でも子どもがあらぬ方向に解釈し、それで誰かを傷つけるようなことになるなら、最低限のことは事前に大人が助言するべきだし、子どもが見る前にまずは大人がこの作品が子どもたちにどう影響するのかを考えてから見せる(または一緒に見る)べきだと思うし、この作品に限らず、いけないと思ったらきちんと伝えていくことがこれからの子どもたちを守ることに繋がるんじゃないかと思う。表現が今の時代に沿っているか、それを見た当人が暴力的/性的なシーンをどう解釈するか、そして犯罪を犯罪として認識できるか、精査する必要があると思う。

 なんでも与えてはい終わり、あとは自分で考えてね、ではあまりにも無責任ではないだろうか。そこは子どもを育てる社会の一員としての大人の責任だと思う。
 父親にそれとなくこういう話をしてみたところ、「俺が子どもの頃も北斗の拳とかみんな見てたし心配ないよ」と返されてしまい、あぁ、こういう人たちがいるからエロ本やAVを性の教科書だと信じて性犯罪を犯す人が絶えないんだなと思った。

 私は大人になってからアニメにハマり、今でも趣味の一つとして楽しんで見ている。しかしそれらは児童向けか?と言われるとそうでないものがほとんどだと思う。
 例えば、鬼滅の刃と同じ週刊少年ジャンプで連載されていた約束のネバーランドや、同じくジャンプで今も連載中の呪術廻戦を子どもたちに薦められるか?と聞かれれば絶対にNOだ。約ネバはこの冬に実写映画化するが、鬼の表現やヒトが捕食される描写はどうするのだろう?と思っている。

 アニメと一口に言っても様々な作品がある。1クールにだいたい40~50作ほどが並ぶ世界で、多種多様なジャンルのアニメが放送されている。
 そのほとんどは深夜帯に放送されているし、もはやアニメは大人が楽しむためのコンテンツと言っても過言ではないだろう。それを、区別なく子どもたちに見せて良いのかどうか、特に子どもと関わる者はよく考えなければいけないなと日々働きながら痛感している。

 子どもたちにとって、何が最善の利益か。保育の原理を常に忘れず意識したい、と改めて思った私なのだった。



追記(※以下壮大なネタバレ)

 映画は本当に面白かったし、声優陣がめちゃくちゃ素晴らしいお芝居をされていて感動しました。ラスボスにcv石田彰が出てきた時はぎぇぇぇえええええ!石田彰ァァァァ!とリアルに叫びそうになったのをぐっと堪えた私偉い………石田彰様のお芝居を映画館の上質な音響で聞けて大変良かったです……有難うございました。至福の時間でした。
 声優さんも大好きなので今モブから江口拓也の声がしたが!?とかいちいち興奮してしまって泣けなかったな……平川さんのお芝居も最高だった……これが応援上映だったら平川さんと石田さんのところでスタンディングオベーションしてた。

 アニメ2期全力で待ってますよ〜!?!?えのじゅん!!!!!!!!!(千寿郎出るよね!?!?!?)